「癒し目的ならOK」はホント?判例や国会答弁をわかりやすくまとめてみた

SHIATSU CAMPのお二人が配信しているポッドキャスト「指圧師のラヂオ #7」で”医業類似行為/昭和35年の事案に対する政府の解釈”の話がありました。非常にマニアックですが重要なテーマなので、私もこの件について調べてみました。やや長文になりますが、ぜひ最後までご覧ください!

指圧・マッサージは「医業類似行為」です

もしかして…もしかしてですけど……「マッサージって、誰でも仕事にできるんじゃないの?」と思っていませんか?実は、指圧やマッサージは「医業類似行為」と呼ばれ、国家資格がなければ業として行ってはいけないと法律で定められています。

ちなみに医師が行える「医療行為」とは、具体的には「診断行為」「薬の処方」「外科的処置」「麻酔」などのことです。

無資格でも施術OK?昭和の事件から考える

いま街を歩けば、「整体」「ストレッチ」「もみほぐし」「リラクゼーション」などを看板に掲げたお店があふれています。その中には、資格を持たずに人の体を施術する人たちが多数いるのが現状です。

でも、ちょっと待ってください。
それって本当に安全でしょうか?

今回は、実際に日本で起きたある裁判を通じて、「無資格の施術がなぜ問題なのか?」をひもといていきます。まずは時系列でファクトを並べてみますね。


● 1951年(昭和26年)……とある炭鉱夫の逮捕
ある炭鉱で働いていた男性が、「HS式無熱高周波治療器」という機器を使って、仲間の肩こりや腰痛を和らげようと施術を始めました。

しかし、始めて3日後、警察に逮捕されます。理由は「あん摩師、はり師、きゅう師及び柔道整復師法」違反。
国家資格を持たずに医業類似行為を業として行ったとされたのです。

● 1953年(昭和28年)……簡易裁判所、有罪判決
事件は裁判に発展し、簡易裁判所は罰金1,000円(執行猶予付き)の有罪判決を言い渡しました。しかし被告は納得できず、控訴します。

● 1954年(昭和29年)……高等裁判所、再び有罪判決
控訴審でも有罪。被告はさらに、最高裁判所に上告しました。

● 1960年(昭和35年)……最高裁が差し戻しを命じる
最高裁は、高裁の判決を「破棄・差し戻し」としました。
その理由は、「HS高周波療法が有害か無害かの検証を再度仙台高裁で行うように」というものでした。

しかしこの最高裁の判断は、当時のメディアで
「無害なら罪にならぬ」(朝日新聞)
「有害な場合だけ制限、あんま・はり等の医業類似行為」(毎日新聞)
という見出しで報じられ、それが誤解を生んで「無資格でも大丈夫」という認識が一気に全国に広まってしまいました。

● 1963年(昭和38年)……仙台高裁、再審理でも有罪
差し戻された仙台高等裁判所は、改めて審理を行い、
「HS式療法は人体に害を及ぼすおそれがある」と判断。再び有罪となりました。

● 1964年(昭和39年)……最高裁、有罪確定
被告は再度上告しましたが、最高裁はこれを棄却。
有罪判決が確定しました。

● 2019年(令和元年)……国会で再確認
この事件から約60年後。2019年(令和元年)、参議院で「あはき法」に関する質問が出されました。質問したのは櫻井充参議院議員で、この人は医師でもあり、厚生労働副大臣を務めた経験もある方です。

要点をざっくり一問一答式に整理すると、以下のようなかんじになります。

Q1「“医業類似行為”とは、無資格者による施術だけを指すのか?」

A1(厚労省)
いいえ。国家資格者によるあん摩・マッサージ・指圧・はり・きゅうなども含まれます。行為そのものが「医業類似行為」です。

Q2「“医業類似行為”の定義が曖昧では? 国民の理解にもばらつきがあるのでは?」

A2
「人体に害を及ぼすおそれがある行為」を医師以外が行う場合、それが医業類似行為です。定義は法的・行政的に整理されています。

Q3「“リラクゼーション”や“ストレッチ”は合法なのか?」

A3
具体的な内容・強度・部位などによっては違法になる可能性があります。
人体に害を及ぼすと違法です。


Q4「“医業類似行為”の違法性の判断基準は?」

A4
行為の内容・施術者の技量・使用器具・人体への影響などを総合的に判断します。

Q5「あはき法の規制は憲法(職業選択の自由)に反しないのか?」

A5
あはき法の規制は憲法違反ではありません。
最高裁の判決により、「人体に害を及ぼすおそれがある行為」を規制する解釈が確立されています。

Q6「経産省はリラクゼーション業を推進しているが、法との整合性は?」

A6(経産省)
あはき法などの法令順守を前提としています。

まとめ

調べてみて改めて思ったのは、1960年(昭和35年)の最高裁の「破棄・差し戻し」と、当時のメディア報道が、今につながるカオスのスタート地点だったんだなということです。

最高裁は「無資格でもOK」と言ったわけじゃありません。
あくまで「有害かどうかをちゃんと調べてから判断してね」と差し戻しただけ。

で、その後も裁判は続いて、最終的には有罪が確定。さらに2019年には厚労省が国会で「指圧やマッサージは医業類似行為だから国家資格が必要です」と、きっぱり明言しています。

つまり──
やっぱり国家資格、いるんです。

今回は、あくまで事実関係をなるべく噛み砕いて列記させてもらいました。
私自信の意見や、「じゃあ指圧マッサージを受けたい人はどうしたら良いの?」といった一般人の対処法については別記事で述べたいと思います。それではまた!


参考


●厚労省:いわゆる無届医業類似行為業に関する最高裁判所の判決について
https://www.mhlw.go.jp/web/t_doc?dataId=00ta1075&dataType=1&pageNo=1

●第198回国会 質問主意書
https://www.sangiin.go.jp/japanese/joho1/kousei/syuisyo/198/touh/t198062.htm

●無資格施術に「待った」!──裁判所が示した明確な基準と治療院業界の未来。山形地裁の判決から読み解く、今後の業界のあるべき姿
https://cmlabo.jp/2025/04/08/20250408license/

●「無害有効な治療法」は免許なしでも業として行うことはアリか?ナシか? 昭和35年 最高裁判決文を読み解く
https://okanohari.com/594/

●指圧師のラヂオ #7 国家資格の話(中編)
https://open.spotify.com/episode/38wP1lbVrMrK9HYZLv2Mse

※当記事・イラストの生成にはChatGPTを使用しています。

この記事の筆者

鈴木健介(アミケン) / Kensuke Suzuki

1977年 大阪生まれ。編集者 & セラピストのパラレルキャリア。
厚生労働大臣認定 あん摩マッサージ指圧師 / 合同会社GX代表 / アミケン編集塾 塾長 / PRSJ認定PRプランナー / 日本指圧専門学校 61期卒 / 趣味:阿波おどり
操体法は 私の曾祖父、橋本敬三が創案した健康法です。
SOTAI is a movement therapy that was invented in Japan to heal your body naturally.

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